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高松高等裁判所 平成6年(行コ)5号 判決

控訴人

三木俊治

杉本達治

右控訴人両名訴訟代理人弁護士

朝田啓祐

被控訴人

圃山靖助

右訴訟代理人弁護士

井上善雄

主文

一  控訴人三木俊治の控訴を棄却する。

二  原判決中、控訴人杉本達治に関する部分を取り消す。

三  被控訴人の控訴人杉本達治に対する請求を棄却する。

四  控訴人費用は、第一、二審を通じ、被控訴人と控訴人三木との間においては、被控訴人に生じた費用の二分の一を控訴人三木の負担とし、その余は各自の負担とし、被控訴人と控訴人杉本との間においては、全部被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  控訴費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

第二  主張

当事者双方の主張は、次に補正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

二枚目表八行目「一番三」を「三三番地、三二番地、三四番地」に、二枚目裏三行目及び三枚目裏七行目の各「七七九七円」を「七七七九円」に、四枚目表二行目「故意又は過失があり」を「故意又は過失がある。また」に、同一〇行目「右請求は理由がないとした」を「平成五年七月一七日付けで右請求は理由がないとしてこれを棄却し、その旨の通知をした」に改める。

二  控訴人らの当審における主張

普通地方公共団体は、条例や議会の議決がなくても適正な対価であれば普通財産の貸付けを行うことができる(地方自治法九六条一項六号)から、仮に、本件マンションの使用が普通財産の利用関係に当たるとしても、徳島市の控訴人杉本に対する本件マンションの貸与が適正な対価で行われているとすれば、その貸与に違法はないものというべきである。

ところで、徳島市が、控訴人杉本から徴収した本件マンションの利用料は、徳島県公舎管理規則を準用して算定したものであるが、右規則は普通財産である宿舎の利用料(賃料)を定めた規則であるから、これを準用して定めた本件利用料は適正な対価であり、本件マンションが専ら徳島市が幹部として自治省から受け入れる職員のために用意する宿舎で、事実上入居が義務付けられていることを考えると、右の額は適正を欠くものとはいえいない。さらに、徳島市が本件マンションを使用する職員に住宅手当を支給するとすれば、その給付金額は二万二〇〇〇円(徳島市職員の給与に関する条例八条の四)となるところ、控訴人杉本は、右住宅手当の支給を受けず約九〇〇〇円の利用料を支払っていたのであるから、計算上三万一〇〇〇円の賃料を支払っていたのと同じであり、この点からも適正な対価ということができる。

三  被控訴人の反論

本件マンションは、普通財産とはいえないし、その貸与も法令に基づく適正なものではない。

第三  証拠関係

原審及び当審記録中の各証拠目録掲記のとおり

第四  当裁判所の判断

一  引用に係る請求原因1(当事者)及び同2(一)(本件マンションの貸与及び徳島市の賃料支払等)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、同請求原因2(二)について判断する。

1  被控訴人は、徳島市が特定の職員(いわゆる自治省出向職員)のために本件マンションを民間から賃借して賃料として公金を支出し、これを右職員に貸与することが違法である旨主張するが、市が職員の宿舎とするため民有のマンションを賃借し、その賃料を支払うこと自体は何ら違法とはいえない。

被控訴人の主張は、要するに、徳島市は、本件マンションの賃料として支払う月額四万五〇〇〇円と控訴人杉本が同市に支払う使用料との差額を徴収すべきであるのにその徴収を怠ったことが違法であるとの主張を含んでいるものと解されるから、この点について判断する。

2 普通地方公共団体が民間から賃借した財産は公有財産ではないが、その管理は公有財産と同一にすべきであり、それが公用又は公共用に供されるものであれば行政財産として、それ以外の場合であれば普通財産として管理されなければならない。

ところで、控訴人らは、本件マンションは、徳島市が専ら国(自治省)から受け入れた職員の宿舎として使用され、右職員は本件マンションに居住することが事実上義務付けられているのであるから、行政財産に準ずべきものであり、その使用は行政目的に沿ったものである、したがって、控訴人杉本が支払った使用料は対価ではなく行政財産の維持費負担の性質をもつものであると主張する。しかしながら、控訴人杉本は徳島市の財政部長の地位にあったことは争いがないが、右財政部長がその職務を遂行するうえで一定の場所(本件マンション)に居住しなければならないものとは認められず、また、それが法令等によって義務付けられているともいえないから、控訴人らの右主張は採用できない。他に、これを行政財産として管理すべき法令上の根拠はない。

次に、控訴人らは、本件マンションの使用が、普通財産の利用関係に当たるとしても、控訴人杉本に対する本件マンションの貸与は適正な対価で行われているので、違法性はないと主張する。しかしながら、徳島市は控訴人杉本から本件マンションの使用料として一か月八九六五円又は七七七九円を徴収していたこと、一方同市が本件マンションの賃借料として賃貸人に一か月四万五〇〇〇円を支払っていることは当事者間に争いがないところ、右を比較すると、控訴人杉本の支払う使用料は本件マンションの使用料の対価として相当性を欠くと認めるのが相当である。なるほど、証拠(乙三の一、二、乙七)によれば、本件マンションの使用料は、徳島県公舎管理規則に準じて算定したものであることが認められるが、それだけで直ちにそれが適正な対価であるということはできない。また、徳島市職員の給与に関する条例(乙一)によれば、一か月二万三〇〇〇円を超える家賃を支払っている職員に対しては、当該家賃から二万三〇〇〇円を控除した額の二分の一(それが一万五〇〇〇円を超えるときは一万五〇〇〇円)に一万一〇〇〇円を加算した額が住宅手当として支給されることは当事者間に争いがないから、本件マンションを賃借する控訴人杉本に右住宅手当を支給するとすれば、その給付額は二万二〇〇〇円となるところ、控訴人杉本は右手当の支給を受けず約九〇〇〇円の使用料を支払ったのであるから、計算上は一か月三万一〇〇〇円の対価を支払ったのと同一の結果になるが、そうだからといって、右の差額からみてなお適正な対価ということはできない。

さらに、地方自治法九六条一項六号は、条例で定める場合を除き、地方公共団体が適正な対価なくして財産を貸し付ける場合には議会の議決を要する旨規定するところ、本件全証拠によっても本件マンションの貸与について徳島市の条例の定め、または市議会の議決があったと認めるに足りる証拠はない。

3 右認定判断によれば、徳島市は、本件マンションをその職員である控訴人杉本に対し適正な対価で貸し付けているとはいえないから違法であるといわなければならない。しかし、控訴人杉本が本件マンションを使用する法律関係は、徳島市が控訴人杉本に対し賃料は一か月八九六五円又は七七七九円と定めて貸し渡し、控訴人杉本はこれを借り受けた私法上の賃貸借関係に基づくものであるから、その賃料が低廉であるからといって、賃借人である控訴人杉本が、賃料を法律上の原因なくして不当に利得したものとは到底いえない。

被控訴人は、徳島市の本件マンションの賃借料の支出は、これを徳島市が支払うことによって、控訴人杉本に対し同控訴人が同市に支払った使用料との差額の支払いを免れさせ、同額の利益を同人に与えるものであるから、地方自治法二〇四条の二に規定する「その他の給付」の支給に該当すると主張するが、採用の限りでない。

三  請求原因3(損害)について

徳島市が本件マンションの平成三年四月から平成五年三月までの毎月における賃料四万五〇〇〇円と控訴人杉本から徴収した使用料八九六五円の差額及び同年四月における前記賃料と控訴人杉本から徴収した使用料七七七九円の差額の合計九〇万二〇六一円を出捐したこと、また、後日、平成三年度及び平成四年度の右使用料が改定され、控訴人杉本からその差額合計五四七二円を追加納入を受けたことは当事者間に争いがないから、徳島市が、本件マンションを控訴人杉本に貸与して適正な対価を徴収しなかったことによって被った損害は八九万六五八九円となる。

四  請求原因4(責任原因)について

控訴人三木が、本件マンションの貸与当時、徳島市長の職にあったことは当事者間に争いがないところ、地方公共団体の長である市長は、市の予算を執行し、貸付財産について適正な使用料を徴収するなど市の財産を適正に管理すべき義務を負っているのであるから、これらを怠ったものとして少なくとも過失があったものというべきである。右の点につき、前記のような貸与が従来から行われていたからといってその過失を否定することはできない。

五  請求原因5(監査請求)は当事者間に争いがない。

六  そうすると、控訴人三木は、損害賠償として、徳島市に対し八九万六五八九円及びこれに対する不法行為の日より後である平成五年八月一三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第五  結論

よって、控訴人三木の本件控訴は理由がないから棄却し、控訴人杉本の本件控訴は理由があるから原判決を取消し、被控訴人の控訴人杉本に対する請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野利隆 裁判官 渡邊貢 裁判官 田中観一郎)

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